電気自動車(EV)普及で何が変わる? シンガポールの車事情について

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kamobsコラム Vol.2~

二酸化炭素の排出削減対策の一環として、東南アジアでは電気自動車(EV)導入拡大に向けた機運が高まっている。Maybank Investment Bank Bhd(Maybank IB)は、域内のEV普及率は2025年までに現在の5倍の20%になり、2035年までには販売台数でEVがガソリン・ディーゼル車を上回ると予想している。

シンガポールではすでに2020年度予算案のなかで、EV普及によるやさしい環境づくりを目指し2040年までに段階的にガソリン・ディーゼル車を廃止する方針を示している。また2021年度予算案ではEV普及のため2030年までに60,000台のEV充電ポイントを展開する計画も発表された。

EVに関しては、2016年に政府主導のプロジェクトとして始動したBlueSGという電気自動車のシェアサービスがある。低料金のサブスクリプションベースで利用できることをウリにしている。まだまだ充電ポイント数や利用前に充電ポイントを予約する必要があるなど課題は多いが、現在8万人以上が利用している。

ただ、BlueSGの会員に対しては、「車が買えない人たち」とかなり見下した風潮がある。シンガポールでは車は未だにステータスシンボルそのものだ! 

ラグジュアリーな車の所有者が大衆車の所有者を見下す場面は公道でよく見られる。特に小型の大衆車には煽り運転こそしないものの頻繁にクラクションを鳴らしたりする。ここには車社会のヒエラルキーが存在しており、BlueSGを底辺に置く者も少なくない。

実際、シンガポールで車を所有するにはかなりお金がかかる。来星間もない2000年頃、「カローラの中古が600万円」だとか「ベンツ1台で家(コンドミニアムやHDB)が買える」などと言う話をよく耳にした。決して誇張された話でないと知るまでに時間はかからなかった。

シンガポールでは経済的に余裕がないと車を所有できない。その理由の1つが日本人には理解しづらい高額な車両購入権(Certificate ofEntitlement:COE)の存在だ。これは車やバイクを所有するための前提条件として車を購入する際に支払わなければいけないものである。

国土の狭いシンガポールでは渋滞による経済活動の悪化を防ぐための手段として、COE発行数をコントロールすることで国内の車両台数を調整している。

COE発行数は前3ヵ月間の登録抹消台数を主な基準に決定されるため、登録抹消台数が少なければ、発効枚数も少なくなりCOE価格は上昇する。COE価格は月に2回の入札で決まるが、これが実に馬鹿高い!

COEは車両タイプによって以下の5つのカテゴリーに分類されている。

カテゴリーA:排気量最大1,600cc、出力97kWまでの車
カテゴリーB:排気量が1,600cc以上または出力97kW以上の車
カテゴリーC:商用車(貨物自動車およびバスを含む
カテゴリーD:オートバイ
カテゴリーE:オートバイを除く上記のすべてに適用されるオープンカテゴリ(主に大型車に適用)

例えば、カテゴリーBの直近のCOE価格は93,590Sドル(約797万円)にまで上昇している。

政府はEV普及を促進するため、購入者にはインセンティブとリベートを設け、EVへの切り替えの障壁を低くしていると主張するが、自分が一目惚れしてしまったTesla Model 3 の場合、COEを加えた購入価格(2022年2月25日現在)は日本円で1,700万円以上となる。もっとも安いと言われる中国の自動車メーカー「BYD汽車」のミドルクラス「e6」でも日本円で850万円を超える

結局、EVが普及してもシンガポールにおける車社会のヒエラルキーは消えることはないだろう。2年後、愛車(小型の大衆車)を登録抹消しなければならない我が家では、BlueSGに乗って見下されるより、政府がもともと奨励していた公共交通機関の利用を選択するんだろう。


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