~kamobsコラム Vol.11~
自慢ではないが、理由あってシンガポールの永住権を2度取得(一度放棄している)している。その分、永住権がどういうものなのか、そして、永住権を取得するとどんなメリットがあるのか自分では詳しいほうだと思っている。
永住権は自国籍を維持しつつ永住を目的に取得する権利である。就労ビザとか必要なくシンガポールに滞在することができる権利で、中古ではあるが公営住宅を購入する権利も与えられる。個人的にはこの2点が永住権保持者の最大のメリットだと考える。
以前ほどではないが、今でも永住権に関する問い合わせをいただくことは少なくない。質問で多いのは以下の2点。
1.自分が永住権を取得すると息子が兵役に行かなければならないのか?
2.永住権を取得すると、給料が下がると聞くが本当か?
シンガポールの徴兵制度ではシンガポール市民だけでなく永住権保持者2世の男子にも兵役義務が課せられる。したがって、息子を兵役に行かせたくないというのであれば、息子の永住権を申請しなければいいだけのことだ。
ただし、家族でシンガポールに滞在している場合、息子を除いて永住権を申請すると、「息子に兵役義務を負わせたくないため」と判断され、取得率が下がるという話も耳にする。どのように申請するかは親の責任で決めていただくしかない。
我が家は父(筆者:永住権保持者の日本人)、母(シンガポール人)、長男(永住権保持者の日本人)、次男(日本とシンガポールの二重国籍)の4人家族。長男と次男のステータスが違うのは、長男が日本で生まれ、次男がシンガポールで生まれたことによる。
シンガポールは血統主義を取り入れているため、シンガポール人の母親を持ち、シンガポールで生まれた次男には自動的に現地の出生証明証がついてきた。次男は(ハーフではあるが)シンガポール人として兵役に行くことは当然だと思っているようだ。
永住権保持者2世である長男は数年前に兵役を全うし、今も永住権を保持したまま東京で暮らしている。将来、会社からシンガポールへの転勤を命じられた場合は、就労ビザを必要とせずにこちらで働くことができる。
「自分が永住権を取得すると息子が兵役に行かなければならないのか?」と質問くださる方の多くは兵役をデメリットだと考えているようだ。そういう方からは、兵役期間の2年間がもったいないとの意見も聞かれる。
考え方の違いによるが個人的に兵役がデメリットだと考えたことがなく、むしろ長男には2年間(実質はもっと短い)、貴重な体験ができるのだから、大学進学が遅れても何の問題もないと兵役に行くことを勧めたのを覚えている。
永住権を取得すると、給料が下がると懸念する方もいらっしゃるが、これはそもそも事実と異なる。永住権保持者は勤め人であればシンガポール国民同様、CPFと呼ばれる中央積み立て基金に加入することになる。日本の年金のようなもだが制度はしっかりしている。
CPFは自己負担分と会社負担分からなる。自己負担分だけ手取りが少なくなるが給料自体が減るわけではない。会社負担額分はそのままCPFの積み立て金として上乗せされることになるので会社から支給される額は増えることになる。
ちなみに筆者が初めて永住権を取得したときは手取り分が減らないように会社が配慮してくれ、結果的に基本給を上げてもらったことを覚えている。
CPFは自由に引き出すことはできないが、全て自分の貯金であることは間違いない。しかも金利は銀行とは比較にならないほどいい! CPF制度によって、給料の手取りがわずかに少なくなることはあるが、これは永住権取得によるデメリットではない。永住権を取得しCPFに加入することはむしろメリットである!
蛇足だが、このCPF、永住権を放棄した場合に全額引き出すことができる。ただし、筆者のように一度永住権を放棄しておきながら、後に再申請して再度永住権を取得できた場合は、引き出したCPFを利息込で納入する必要がある。
筆者が再度永住権を取得した時は、このCPFの納入時期に関しては全く知らされず、忘れかけていた頃にとんでもない事態が発生した。再入国許可の3度目更新時に入国管理局からCPFの納入が済んでいないので更新できないと知らされた。
結局、長期間分の利息分込みのCPF約10万Sドル(約930万円)を分割で納入し、再入国許可の更新ができた。ただこれも、せっかく取得した永住権を放棄し再度取得した自分の責任であり、永住権取得によるデメリットではない。
以前と比べて、永住権取得は難しくなっているが、長く滞在することを考えているのであれば、諸々条件がそろった時点で申請してみてはどうかと思うほど、永住権取得によって得られるメリットしか現時点では頭に浮かばない。
就労ビザ新規取得のための最低月額給与が2022年9月からこれまでより500Sドル高い5,000Sドルに引き上げられる。外国人雇用のハードルがより高くなることから、就労ビザの申請を必要としない永住権保持者の雇用は、企業にとっても手っ取り早く、場合によっては、永住権保持者に有利に働くのではないだろうか。
東京にいる長男には永住権を放棄しないよう口酸っぱく言い続けている。