~kamobsコラム Vol.5~
待ち合わせ場所に必ず10分前には到着する知人(日本人)がいる。太い手首に巻かれた重そうな腕時計の長針は常に15分先にある。時間にルーズにならないようにと腕時計だけでなく自宅の時計全ての時間を15分早めているらしい。
本人曰く、来星して3ヵ月でシンガポール人の時間感覚に慣れてしまい、時間ギリギリにならないと次の行動に移れなくなったのだとか・・・・・・。時計を15分先に進めることで、時間を守れるようになっただけでなく、気持ちに余裕が持てるようになったという。
取引先との面談時間が15:00の場合、遅くとも14:50には相手と会える準備ができている知人。一方で相手がシンガポール人なら待ち時間に遅れても気にならないという。
一方、自分はというと、シンガポールでの時間感覚に慣れてしまっているだけならいいが、自分の10分遅れ(他人の10分遅れ別)も遅刻だと思わなくなってきている。日本人としてとても恥ずかしく思う。先日は初めてお会いする方とのミーティングに30分近く遅れてしまい猛省。
短期間のプロジェクトでサポーティングスタッフが必要となり、Zoomではなく直接会って面接することになった。事前に「所定の場所に時間厳守でおねがいします」と伝えてある以上、こちらが遅れるわけにはいかず、今朝はいつも以上に早め早めの行動を心掛けた。
1人目の面接。なんとか予定時間には間に合ったが、気持ちにゆとりがなく、ダラダラと吹き出てくる汗を拭うのに必死な自分。面接を受けに来てくれた女性はほぼ同じ時間に到着したが、彼女のほうはとても落ち着いていて涼しい顔でいた。
この女性は、日系企業での勤務経験があり、以前に日本人駐在員のボスから”Punctuality”を意識するよう口酸っぱく言われたという。最初のうちは、時間に間に合えさえすれば問題ないと理解していたようだが、そのボスの”Punctuality”には「10分前に!」という意味が込められていることを知るまでに時間はかからなかったようだ。
日系企業で日本人式”Punctuality”が商習慣として身についたという彼女だが、仕事を離れれば普通にシンガポール人の時間感覚にシフトするらしい。遅刻には”それなり”の理由があり、トラブルが原因で時間に遅れることは仕方がないと考えているようだ。ただ、そのトラブルの中に雨を含めているのは、やっぱりシンガポール人らしい。
面接は40分ほどで終了。2人目の面接までにはまだ20分ある。手元の履歴書に目をとおす。時間はたっぷりある。
面接時間まで1分を切るが履歴書の写真の女性はまだ姿を見せない。予定時間を5分過ぎたところで、「まもなく到着する」とのメッセージが届いたが、彼女が到着したのは予定時間を20分過ぎた頃だった。
開口一番、「ごめんなさい、雨のせいで遅れてしまいました」と遅刻の理由を話してくれたけれど、今日の午前中どの時間帯にどこで雨が降っていたんだろうか?
雨に濡れた形跡がない彼女を前に、イライラしっぱなしの自分。できるだけ冷静を装って今回のプロジェクトと担当業務の説明をさせてもらった。予定より早く終わったものの25分がとても長く感じた。
自分のことを棚に上げ、人の遅刻にイライラする自分。知人のように腕時計を15分早めれば、心に余裕が持てるようになるのか? 少し試してみたくなった。
日本人の時間感覚を持ち、シンガポール人の時間感覚を理解し受け入れている知人は、バランス感覚にも秀でている。このバランス感覚があるからこそ、日本人やシンガポール人だけでなく多くの外国人をまとめられるのだろう。そんなことを思いながら、腕時計を少しだけいじってみた。