シンガポールの企業は、東南アジアの中でも依然として高い離職率を抱える一方で、2026年の昇給率を慎重に抑える見通しである。
人事コンサルティング大手エーオン(Aon)が実施した最新の「給与上昇および離職率調査(Salary Increase and Turnover Survey)」によると、シンガポールに拠点を置く企業の2026年の平均昇給予算は4.3%で、2025年の実績と同水準となる見込みだ。
同調査は2025年7月から9月にかけて、シンガポール、インドネシア、マレーシア、タイ、ベトナム、フィリピンの6カ国にわたる15業種以上、700社超の企業および地域オフィスを対象に実施された。
業種別では、ライフサイエンスおよび医療機器業界が平均4.6%と最も高い昇給率を計画している。エーオン東南アジア地域の人材ソリューション統括パートナー、ラフル・チャウラ氏は「ライフサイエンス業界は一般的に給与水準が高く、人々の健康や生活改善に貢献したいという目的意識を持つ人材にとって魅力的な分野である」と述べている。
一方で、エネルギー業界は3.5%と最も低い昇給率を見込んでおり、慎重な業界見通しがうかがえる。
地域別に見ると、ベトナムが7.1%と最大の昇給率を計画しており、次いでインドネシアが5.9%、フィリピンが5.2%となっている。チャウラ氏は「インフレ率の上昇が給与調整の主要因となっており、発展途上国ではインフレ率が高い傾向にあるため、昇給幅も大きくなる」と説明した。
一方、シンガポールの離職率は2024年6月から2025年6月の期間で19.3%に達し、地域内ではフィリピン(20%)に次ぐ高水準だった。うち自発的離職が12.7%、非自発的離職(解雇等)が6.6%を占めた。特に非自発的離職率はシンガポールが東南アジアで最も高く、ベトナムが2.1%と最も低かった。
業界別では、製造業が全体離職率26%、自発的離職率20.9%と最も高い水準を示した。チャウラ氏は「高齢労働者の自主的な退職が影響している可能性があるが、業界自体が若手人材にとって魅力を欠いていることも要因の一つだろう」と分析する。
また、小売・ホスピタリティ業界では非自発的離職率が7.3%と最も高く、次いでテクノロジー業界が6.8%だった。
エーオン東南アジア地域のデータソリューション責任者、エボン・ロック氏は「多くの企業がAIやテクノロジーを活用することで、人員を増やすよりも業務効率の最適化に注力している」と述べ、2025年下半期の人員計画について「横ばい傾向」が続くとの見方を示した。
東南アジア6カ国共通で、営業職とIT関連職が依然として最も需要の高い職種である。エーオン・マレーシアのアソシエイトパートナーで人材ソリューション部門統括のレイチェル・ジャヤ・プラカッシュ氏は「製品やサービスの高度化に伴い、営業人材に求められるスキルが進化している。市場でその能力を発揮できる人材は限られている」と指摘した。さらに、「データ保護やサイバーセキュリティの重要性が高まる中、関連分野の専門人材への需要も一段と強まっている」と付け加えた。
※ソース


