香港からの撤退を検討している企業にとって、移転先としてシンガポールは魅力的に映るかもしれないが、企業経営コストの上昇により期待どおりの業績が見込めない可能性も考えられる。
物価上昇が緩やかな香港と比較し、シンガポールではインフレ率が過去14年間で最高レベルにまで高騰しているおり、オフィススペース、人材採用、光熱費などの経費が急上昇している。
(オフィス賃料)
世界で最も高いオフィス市場である香港では予測できない新型コロナウイルスのガイドラインや政治的な不確実性が経済を悪化させ、コアビジネス地区のオフィス賃料が6月から4%引き下げられている。一方、シンガポールのビジネス中央地区の賃貸コストは3四半期にわたって上昇傾向にある。
不動産サービス会社JLLシンガポールのレポートによると、シンガポールの賃貸コストは依然として香港や北京を大きく下回っているが、その差は縮まっているという。
Maybank Investment Banking Groupのエコノミスト、Chua Hak Bin氏は、「シンガポールの迅速な経済再開と『コロナとの共存』は『ゼロコロナ政策』を掲げる香港より、人件費と賃貸料の上昇を加速させている」と指摘。
また、民間部門に波及する可能性のある今年の公務員の賃上げは、シンガポールで5%から14%の昇給を見込んでいるが、香港はわずか2.5%の昇給の提案に留まっている。
(電気代とその他のコスト)
香港には2つの電力会社があるが、ロシアによるウクライナ侵攻後のエネルギー価格の上昇の影響で電気料金は2021年に急上昇し、今年に入って落ち着きを取り戻している。一方で最新の電気料金インフレ率が過去最高となったシンガポールは香港の電気料金を上回っている。
(労働供給と人件費)
パンデミックによる労働力不足はシンガポール・香港がともに直面している問題だが、シンガポールの失業者に対する求人数の比率は、第2四半期に歴史的な高水準に達した。その結果、昨年は主要セクターのほとんで、新規求人の給与が香港を上回るペースで上昇した。
シンガポールでは物価上昇が加速しているにもかかわらず、新規企業設立率は8月に17カ月ぶりの高水準に達した。一方香港では、現地企業の新規設立数は2021年のペースとほぼ同じだが、2017年のピークからは減少している。
Maybankのエコノミスト、チュア氏は、シンガポールへの移転やゼロからのスタートを考えている企業にとって重要なのは、経営コストが今後どのように推移していくか見極めることだと指摘。そのうえで、今決断を下そうとする企業にとっては、米国と中国の地政学的な対立の激化、香港の国家安全保障法、アセアン諸国へのサプライチェーンの多様化など、他の構造的要因がより重要となる可能性があると述べた。
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