【シンガポール】AI時代でも強みを発揮、ソフトウエア人材が拓く新たな役割

シンガポール
Singapore could be a hub managing artificial intelligence agents rather than human coders. ST PHOTO: KELVIN CHNG

AIの進化により世界的にソフトウエアエンジニアの仕事が脅かされる中、シンガポールのエンジニアは比較的有利な立場にあると専門家は指摘している。政府の積極的な支援と、グローバル企業が集積するテック・エコシステムがその背景にある。

テキスト入力だけでアプリやウェブサイトを構築できる「ヴァイブ・コーディング(vibe coding)」などの新技術は、従来のプログラミング職にとって脅威となりつつある。Palo ITのユージン・ヤン氏は、企業がインドやベトナム、フィリピン、中国などの海外市場で採用していたジュニア開発者の需要を減らしつつあると指摘する。一方で、シンガポールは高い専門性を持つ小規模な人材構成を生かし、「東南アジアのAIオーケストレーション拠点」としての役割を担う可能性があると述べた。

AIオーケストレーションとは、自律的に学習・作業するAIエージェントを組み合わせて複雑なタスクを実行させる仕組みである。CBREのロヒニ・サルジャ氏は、AIの管理や倫理的設計、システム統合の分野こそ人間の監督が欠かせず、シンガポールの強みが発揮される領域だと指摘する。ただし、データラベリングなどの一部業務は引き続き低コスト市場に依存すると見られる。

マーサー・アジアのラヴィ・ニッパニ氏も、企業がオフショアチームを維持しつつ、高付加価値業務へと転換させるべきだと強調する。ルーチン的なコーディング業務からAI管理やシステム設計などへシフトすることで、企業はリスク分散と競争力の維持が可能になるという。

現在、シンガポールには約4,500のテック企業が拠点を置き、Google、Microsoft、Amazon Web Servicesなどのグローバル大手も地域センターを構えている。AI Singaporeのローレンス・リュー氏は、十分なAI人材が競争力ある水準で確保できれば、企業が一部の業務を海外から国内へ戻す可能性があると述べた。

政府は2029年までに1万5,000人のAI専門人材を育成する目標を掲げ、アプレンティス制度、奨学金、再教育プログラムなどを通じて支援している。代表的な取り組みには、IMDAやSkillsFuture Singaporeと連携する「Skills Pathway for Cloud」や「Tech Immersion and Placement Programme」、AI Singaporeの「AI Apprenticeship Programme」などがある。

リュー氏によれば、AI Singaporeのプログラムは情報工学以外の分野出身者も対象とし、前職での専門知識をAI活用に結びつける点が特徴である。参加者の約6割が修了前に就職先を決め、6カ月以内にほぼ全員が就職しているという。2026年半ばまでに累計500人以上の卒業生を輩出する見込みである。

AIが職のあり方を変える中、シンガポールは“AI時代の人材ハブ”として新たな立ち位置を確立しようとしている。

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