インド最大のITサービス企業、タタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)は、シンガポールに新たなイノベーションセンターを開設し、今後1年間で最大60社の地元企業に対し、AI技術による支援を行う計画である。
この新施設は、TCSアジア太平洋本部が入居するチャンギ・ビジネスパーク内に設けられ、TCSの専門家と共に、最大50社の中小企業および10社のスタートアップが、実際のビジネス課題に対応するAIソリューションの共同開発、プロトタイプ制作、そしてスケールアップに取り組むことができる。
TCSは、同センターの運営を支える人材として、シンガポール国内の大学から最大50名の新卒者を採用する予定である。配属先は、データサイエンスやサイバーセキュリティといった分野になる見込みだ。現在、TCSはシンガポール国内で6,600人を雇用している。
なお、TCSは施設の建設費や規模については明らかにしていないが、2026年前半に拡張を予定しているという。
TCSシンガポール代表のプニット・アガルワル氏は7月3日、ストレーツ・タイムズ紙の取材に対し、「中小企業は大企業に比べてテクノロジーに精通しているとは限らず、高度なコンサルティングにアクセスすることも難しい。今回の新センターはそのギャップを埋める役割を果たす」と述べた。さらに、「TCSのコンサルタントが、企業のデータ理解、AIの活用方法、既存の技術環境の評価と近代化の必要性の判断を支援する」と語った。
このイノベーションセンターはまた、フィンテック企業やスタートアップが自社製品を紹介し、TCSの「Co-Innovation Network(共同イノベーション・ネットワーク)」に参加するためのプラットフォームとしても活用される。これは、革新的なテクノロジー企業とTCSの世界中の企業顧客とを結びつける取り組みである。
「グーグルやNvidiaといったテクノロジーパートナーによる最先端技術と、TCSの業界における深い知見を組み合わせることで、シンガポール企業に具体的かつ効果的な成果をもたらす」とアガルワル氏は述べた。
同日行われた開所式には、貿易産業・国家開発担当政務大臣のタン・アルビン氏が出席し、シンガポール政府が今後もデジタルおよびAI分野での取り組みを強化していく方針を示した。
タン氏は、今回の新センターが、2025年度予算で発表された1億5,000万ドル規模の「Enterprise Compute Initiative(ECI)」と同様の役割を果たすことに触れた。ECIは、シンガポールの企業がクラウドリソース、AIツール、コンサルティングサービスにアクセスできるよう支援する国家プロジェクトである。
「本センターは、地元企業やグローバル企業との連携を通じて、シンガポールのデジタルトランスフォーメーションを推進する拠点となる。スタートアップ、学術機関、政府機関など、様々な分野を結びつけることで、分野横断的なイノベーションと協業を実現する」と述べた。
TCSは本社をムンバイに置き、1985年にシンガポールでの事業を開始した。現在、ITサービス、コンサルティング、ビジネスソリューションを専門とし、世界55カ国で事業を展開している。
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