【マレーシア】トコジラミがDNAを運ぶ証人に、法医学への応用に期待

マレーシア
The discovery suggests that if bed bugs are found at a crime scene, they may carry the genetic fingerprints of whoever was recently there. PHOTO: AFP

人の血を吸うトコジラミ(南京虫)が、法医学の現場で新たな証拠源になる可能性があると、マレーシアの研究者が発表した。

マレーシア科学大学(USM)の研究チームは、空港ラウンジのソファなどから採取したトコジラミの体内に、人のDNAが最大45日間残ることを発見した。この成果は、科学誌『Scientific Reports』および法医学専門誌『Forensic Science International』(2024年8月号)に掲載された。

研究を主導したのは、USM生物科学部のアブドゥル・ハフィズ・アブ・マジッド准教授と、ポスドク研究員のリム・リー氏。彼らは実験室で人の血を吸わせたトコジラミからDNAを抽出し、STR法(短鎖反復配列)とSNP法(一塩基多型)で解析を行った。

「吸血直後には完全なDNAプロファイルを得ることができ、45日後でも部分的な情報が得られた。これにより髪、肌、目の色なども推定可能になる」とハフィズ准教授は説明する。STR法は、現在のDNA鑑定で一般的に使われている技術である。

これまで法医学では、ヨーロッパトコジラミ(Cimex lectularius)の研究が主だったが、今回対象となったのは熱帯地域に多く生息するCimex hemipterusという別の種であり、法医学応用としては初の試みとなる。

この発見により、ホテルや住宅などの犯罪現場でトコジラミが発見された場合、その体内に最近その場所にいた人物のDNAが残されている可能性があるという。トコジラミは飛ばずに近くの隙間に隠れる性質があるため、吸血した人物がその場にいた確率は高い。

「たとえ現場から血痕や指紋が消されていても、トコジラミが証拠になり得る」とハフィズ准教授は語る。実験では、吸血から5日後でも70%以上のSTRデータが残っており、SNPマーカーも大部分が読み取れた。

一方で、課題も残る。今回の研究では、1つずつDNAを検出する単独PCR法を使用しており、現場の法医学ラボで使われるような複数検出可能な市販キットにはまだ対応していない。また、トコジラミが複数の人から吸血する可能性もあり、DNAが混ざってしまう場合もある。

実際にペナンで採取した野外サンプルでは、2人以上のDNAが混在していることを示す結果が出ている。今後、証拠として法廷で使用できるようにするには、さらなるプロトコルの確立と検証が必要とされる。

この発見に対し、ペナン防犯・市民安全協会のモハマド・アニル・シャー・アブドゥラ会長は、「現場に血液が残っていない場合でも、トコジラミのような飛ばない昆虫が手がかりになる。非常に興味深い」と述べる。彼は、2008年にフィンランドで盗難車内の蚊から容疑者のDNAが検出された事例を挙げ、「蚊でできるなら、トコジラミでもできるはずだ」と語った。

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