米国のトランプ前大統領が発表した高関税政策により、ベトナムの主要産業である履物・衣料品製造が深刻な影響を受ける可能性が高まっている。とりわけナイキをはじめとする外資系ブランドの生産拠点が集中するベトナムにとって、今回の関税強化は経済の屋台骨を揺るがすものである。
4月9日、トランプ氏はベトナム製品に対して46%の関税を課すと発表した。これは対象国の中でも最も高い水準であり、ベトナムの輸出産業にとっては甚大な打撃となる。数時間後、一部の国に対する関税引き上げを90日間凍結するとしたが、ベトナムが対象となるかは明言されておらず、依然として不安定な状況が続いている。
ナイキは1995年にベトナムへ進出して以降、同国での製造体制を強化し、現在では100を超える契約工場を構えている。特にホーチミン市周辺には、1万人規模の労働者を雇用する工場が複数存在しており、ナイキブランドのスニーカーの半数がベトナムで生産されている。ナイキ、アディダス、プーマ、スケッチャーズといった世界的ブランドの多くがベトナムを主要な生産拠点として依存している。
米中対立の影響により、これまで中国からベトナムへの生産移転が進んでいたが、今回の関税政策はその流れを逆行させる恐れがある。世界銀行によれば、ベトナムは現在、履物および衣料品の世界有数の輸出国であり、その地位を築く上でナイキなどの外資企業の投資が大きな役割を果たしてきた。
ベトナム政府はこの危機を重く見ており、4月5日にはトー・ラム国家主席がトランプ氏に直接関税の発動延期を要請した。同時に、米国製品への関税引き下げや、防衛・安全保障関連製品の追加購入などの譲歩案も提示している。4月8日にはさらに条件を上乗せしたものの、ホワイトハウスのピーター・ナヴァロ氏は「不十分だ」と述べ、交渉は難航している。
ナイキの経営陣は現在、関税の影響をどのように吸収するか検討しており、現地ベンダーにコストを転嫁する可能性もある。加えて、小売価格の引き上げも検討されており、米国の消費者にも影響が及ぶ見通しである。ナイキ最大の販売パートナーであるフットロッカーは、「ブランドごとに価格戦略を見直している」とし、状況に応じて価格改定を行う意向を示している。
ベトナムは近年、東南アジアでも最も成長の著しい経済を維持しており、2024年のGDP成長率は7.1%に達した。今回の関税政策は、その成長モデルの根幹を揺るがしかねない。外資依存型の構造を持つベトナム経済にとって、グローバルな供給網への接続維持が急務となっている。
※ソース