米中間の関税戦争が激化する中、シンガポール貿易産業省(MTI)は2025年の経済成長率予測を1〜3%から0〜2%に下方修正した。第1四半期のGDP成長率は前年同期比3.8%にとどまり、前期比ではマイナス0.8%と縮小した。シンガポール金融管理庁(MAS)は通貨政策の引き締めペースを緩和し、景気の減速に対応している。
経済の減速を受け、ローレンス・ウォン首相兼財務相は、米中貿易摩擦の影響がシンガポールに及ぶと指摘。「成長は確実に鈍化する」との見通しを示した。2024年通年の成長率は4.4%だったが、2025年はより困難な局面に直面する可能性が高い。
貿易摩擦の中心にあるのが、米国による対中関税の強化である。トランプ米大統領は対中関税を145%に引き上げ、中国も米国製品への関税を125%に引き上げて報復した。シンガポールは4月5日から全輸入品に一律10%の関税を科されている。
MTIは、こうした関税応酬が「世界経済にとって重大な下方リスク」だと警告。企業や消費者の支出が抑制され、世界的な景気減速につながるおそれがある。供給網の混乱が拡大すれば、広範な貿易戦争に発展しかねない。
エコノミストの間では、シンガポールがテクニカル・リセッション(景気後退)に陥る可能性を指摘する声がある。CGSインターナショナルのソン・センウン氏は「不確実性が高まっており、今後もリスクが続く」と述べた。OCBCのセレナ・リン氏は、通年成長率は1.6%にとどまるとの見方を示した。
一方で、マレーシア銀行(Maybank)のブライアン・リー氏は2025年の成長率を2.1%と予測し、リセッション入りの可能性は低いとの見解を示している。金利の低下や建設投資、財政支援が景気を下支えするとしている。
産業別では、製造業が前年同期比5%増と堅調を維持し、建設業も4.6%の成長を記録した。情報通信、金融・保険業は成長がやや鈍化したが、依然としてプラスを維持している。卸売・小売、輸送・保管業は合計で4.2%成長し、全体の下支えとなっている。
※ソース