ペットを家族と考える人々が増える中、シンガポールではペットの世話のための特別休暇を提供する企業が徐々に現れている。まだ一般的ではないものの、従業員の満足度向上や人材確保の戦略として注目を集めている。
Brave Communicationsは、ペットケア休暇を提供する数少ない企業の一つ。同社を2022年に設立した創業者エミリン・アン氏は、従業員に年間3日の「ペットケア休暇(Pawrental Leave)」を提供している。この休暇は、病気のペットの世話をするために使えるほか、新しいペットの迎え入れには2日間、ペットが亡くなった場合には3日間の休暇も認められている。
アン氏は自身の愛犬が股関節の手術を受けた際に仕事との両立に苦労した経験があり、「従業員がペットの世話をするための時間と支援を与えたい」と考え、この制度を2024年に正式な雇用契約に組み込んだ。
こうしたペットケア休暇は、シンガポールではまだ稀であり、The Straits Timesが調査した約20社のうち、導入しているのは少数にとどまっている。人材支援会社ロバート・ウォルターズのモンティ・スジャナニ氏によれば、「ペットケア休暇の提供は新しい概念だが、企業の採用・定着戦略の一環として注目されている」とのことだ。ただし、具体的な実施には至っていない企業も多いという。
早期導入企業の一つである広告代理店TBWAでは、2019年から従業員が利用できる「家族ケア休暇」をペットのケアにも使用できるようにしている。また、デジタル出版社のMothershipや、菓子・ペットフードメーカーのマースも2024年に同様の制度を導入した。
マースではさらに2025年から東南アジア地域の従業員を対象に、ペットの迎え入れや喪失時に1日の有給休暇を提供する予定である。同社のアナスタシア・ティモシナ氏は「私たちはペットとその飼い主を重要視しており、ペットを迎える時や別れの時を尊重したい」と述べた。同社ではペットを職場に連れて行くことも許可されている。
シンガポールでは近年、ペットの飼育が増加傾向にある。動物・獣医サービス(AVS)によると、登録された犬の数は2019年以降30%増加し、現在約9万1,000匹に達している。一方、猫の飼育数も2024年には約9万4,000匹と2019年比で約10%増加している。また、ペットショップの数も2019年の267店から2022年には362店に増加した。
こうした背景から、ペットケア休暇は従業員のメンタルヘルスやウェルビーイングを重視する上で効果的だとされている。ただし、スジャナニ氏は導入にあたっての課題として、ペットケアの定義や生産性への影響、ペットを飼っていない従業員への公平性を挙げている。
一部の企業では、ペットケア専用の休暇ではなく柔軟な勤務体制を取ることで対応している。例えばGoogleシンガポールでは、ペットを失った場合や動物のケアが必要な際に、上司との相談により休暇や柔軟な勤務スケジュールを調整できるようにしている。
マーケティングマネージャーのシェリル・タン氏は、「家族ケア休暇」という名称を用いることで、ペットオーナーやその他の従業員が公平に利用できる制度になることを望んでいると述べた。
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