美容業界の変化に対応するため、資生堂がAI技術の導入やオンライン販売の強化、成分への透明性確保といった多面的な成長戦略を進めている。市場のニーズに即した個別対応と、世界各地でのブランド展開がカギとなっている。
資生堂は顧客体験の個別化を図るため、人工知能(AI)を活用したスキンケア診断デバイス「ビジュアライザー」を導入した。顔の写真を撮影し、肌の状態だけでなく皮膚下の血流も把握できるというもので、簡単なアンケートと組み合わせて最適な製品を提案する仕組みだ。
この取り組みにより、従来の画一的な商品提案ではなく、個人に最適化されたスキンケア体験が可能となった。アジアパシフィック地域を統括するCEOニコール・タン氏は、「より深い理解を通じて顧客に寄り添うことが重要だ」と語っている。
同社は実店舗に加え、オンライン販売にも注力しており、自社サイトおよびECプラットフォームでの展開を強化している。シンガポールでは23の直営店と10の百貨店内店舗、さらに3つのオンラインストアを展開している。
「オンラインと実店舗はどちらも不可欠であり、相互に補完する存在だ」とタン氏は述べる。顧客はオンラインで商品を購入する一方、実際に試す場として物理的な店舗を求めているため、両方を組み合わせたビジネスモデルを採用している。
また、資生堂は市場のトレンドを捉えた製品開発にも力を入れている。近年注目される「スローエイジング(slow-aging)」に対応する形で、2024年3月には肌の回復力とエイジングの根本原因にアプローチする新しい「アルティミューン」美容液を発売した。
この動きは、単に老化の見た目を隠すのではなく、肌の健康を長期的に保とうとする潮流に沿ったものである。また、成分への関心が高まる中、資生堂は米国発のスキンケアブランド「ドランクエレファント」も展開している。同ブランドは、顧客が複数の美容液や保湿剤を組み合わせて使う“スキンケア・カクテル”を提案し、透明性と自由度を提供している。
さらに、2023年には米国の人気ブランド「NARS(ナーズ)」をインド市場に導入するなど、ブランドごとに市場に適した戦略的展開も進めている。タン氏は「市場に合ったブランドを見極め、的確に投入することが成長の鍵である」と強調する。
同氏によれば、市場環境が厳しい中でも資生堂は着実にシェアを伸ばしており、「各市場で意図的に“関連性”を持たせる戦略を徹底し、成果を上げていく」との方針を示している。
加えて、資生堂はダイバーシティにも取り組んでおり、ディレクター職以上の67%が女性である。同社初の女性CEOであるタン氏は、「多様な人材が集まり、活躍できる環境づくりを今後も優先事項として取り組んでいく」と語っている。
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