タイとカンボジアの国境地帯で緊張が高まっている。5月末に発生した軍事衝突を契機に領有権問題が再燃し、両国間の越境貿易や人の往来に影響が出始めている。
カンボジアは国際司法裁判所(ICJ)への提訴を目指す構えを見せているが、タイは二国間協議を重視しており、交渉の行方は不透明である。既に一部の検問所が閉鎖されており、貿易・労働・サービス分野への波及が懸念されている。
国境貿易への影響も懸念されている。タイ商務省によれば、2024年のタイ・カンボジア間の国境貿易額は1,755.3億バーツに達し、うち輸出は1,418.5億バーツ、輸入は326.8億バーツで、貿易黒字は1,091.6億バーツだった。主な輸出品は飲料、自動車部品、農業機械などで、輸入品はキャッサバやスクラップ金属、電線などである。
2025年4月単月でも、貿易額は158億バーツに上り、前年同月比で輸出は10.94%増、輸入は36.28%増と、成長が続いている。しかし、主要な3つの検問所――サケーオ県アランヤプラテート(全体の63.4%)、トラート県クローンヤイ(16.8%)、チャンタブリー県チャンタブリー(15.3%)――が閉鎖された場合、国境貿易の95.5%以上が停止するおそれがある。
チャンタブリー商工会議所のウクリット会頭は、検問所の閉鎖が1週間以上続けば、地域の経済損失は10億バーツを超えると警告している。さらに、同県の農業労働力の8割以上を占めるカンボジア人労働者の移動が制限されれば、果物の収穫・選別・出荷にも深刻な影響が及ぶと述べた。
また、タイ商工会議所大学のタナワット学長は、現時点では閉鎖は一時的であり、輸出入の遮断を目的としたものではないとしながらも、仮にすべての検問所が閉鎖された場合、月間最大100億バーツの経済損失が発生する可能性を示唆した。全国規模での影響は限定的だが、国境周辺の地域経済にはすでに打撃が出ており、情勢の長期化が懸念されている。
今後の交渉の行方によっては、越境医療や労働移動など、貿易以外の分野にも影響が広がる可能性がある。両国の緊張がこれ以上高まらず、早期に正常な関係が回復されることが望まれている。
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