シンガポール政府は、2030年までに食料自給率を30%に引き上げるとしていた「30 by 30」目標を取り下げ、2035年を目標年とする新たな生産方針を発表した。新たな焦点は「繊維(野菜など)」と「たんぱく質(卵・水産物)」の2分野に置かれる。
11月4日に開幕した「アジア太平洋アグリフード・イノベーション・サミット」で、グレイス・フー持続可能性・環境相が発表した。国内農業が直面するコスト高や土地制約などの課題を踏まえた見直しだ。
新目標では、2035年までに繊維の国内生産比率を消費量の20%、2030年までに食料自給率を30%たんぱく質を30%に引き上げる。2024年時点では、繊維が8%、たんぱく質が26%にとどまっている。
「30 by 30」構想が打ち出された2019年当時は、技術革新による都市型農業への期待が高まっていた。しかしその後、パンデミックやエネルギー・人件費の上昇、資金調達の難化などが影響し、農場の閉鎖や生産縮小が相次いだ。ハイテク野菜農場のVertiVegiesやI.F.F.Iなどが事業を停止し、2024年には海上養殖業者の約4分の1が撤退した。
フー氏は「国内のアグリフード産業は供給網の混乱やコスト上昇など、各国と同様の逆風に直面している」と述べた。
政府は食料安全保障の確保に向け、4本柱の新戦略を導入した。従来の「輸入多様化」「国内生産」「備蓄」に加え、「国際パートナーシップ」を新たに追加した。
この枠組みでは、他国政府との協定を通じ、貿易制限のリスクを低減する。2022年にマレーシアが鶏肉輸出を一時停止したような事態を防ぐ狙いがある。2025年10月にはベトナムとコメ、ニュージーランドと必需食品の供給協定を締結した。
備蓄については、米や冷凍鶏肉、缶詰など保存性の高い食品を中心に確保している。
また、フー氏は都市型農業のコスト削減と生産性向上を目的に、複数の農場が共用できる多目的施設の検討を進めていると明らかにした。
同施設は、陸上養殖や温室農業など異なる業種の農場が入居し、電力や水道、包装・加工、物流などの共用サービスを利用できる仕組みを想定している。SFA(シンガポール食品庁)によると、これにより初期投資や規制上の負担を軽減できる見込みだ。調査は1年から1年半を予定しており、既に候補農場との協議が始まっている。
この構想は、リムチュカンで進められている高技術アグリフードハブ計画とは別のものである。SFAは「今回の調査結果を、リムチュカン地域での持続可能な農業開発にも活用していく」としている。
新目標では、代替たんぱく質が除外された。2020年、シンガポールは世界で初めて培養肉の販売を認可したが、コストの高さや消費者需要の伸び悩みにより、代替たんぱく質産業の拡大は鈍化している。
SFAは、当面は培養肉や植物由来製品を食料安全保障戦略に含めないと明言した。ただし、将来的にコストが下がり世界的に普及すれば、食料供給の一翼を担う可能性があるとして、研究開発と産業支援は継続する方針である。
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