シンガポールの配車大手GrabとインドネシアのライバルGoToが進める約70億米ドル(約9.5億シンガポールドル)規模の合併交渉が注目を集めている。この合併により、両社は市場シェアの拡大やコスト削減が期待できるが、規制当局の承認は難しいとの見方が強い。
ブルームバーグ・インテリジェンスのアナリスト、ネイサン・ナイドゥ氏によると、2023年の東南アジアにおける配車サービス市場ではGrabとGoToが総流通取引額(GMV)の70%以上を占め、フードデリバリー市場でも60%のシェアを持つ。この2社が合併すれば、東南アジアのオンデマンドサービス市場の60〜70%を支配することになるという。
市場の拡大も背景にある。統計サイトStatistaによれば、東南アジアの配車市場は2029年までに115億3000万米ドル規模に成長し、利用者数も2億1850万人に達すると予測されている。こうした成長市場を見据え、GrabとGoToは合併交渉を加速させており、2025年の完了を目指しているとブルームバーグが2月4日に報じた。ただし、両社とも交渉についてのコメントを控えている。
両社の財務状況にも変化がみられる。Grabは2024年度第3四半期に1500万米ドルの黒字を計上し、前年同期の9900万米ドルの赤字から回復した。売上高も前年同期比17%増の7億1600万米ドルに達した。一方、GoToも2024年9月30日締めの第3四半期に損失を29%削減し、1.7兆ルピア(約1億4300万シンガポールドル)となった。売上高は8%増の3.9兆ルピアに伸びている。
投資助言会社Aletheia Capitalの消費者・インターネット部門責任者、ニルグナン・ティルチェルバム氏は、合併により東南アジア市場で規模のメリットが得られると指摘する。「東南アジアには6億5000万人の人口があり、コスト削減によってより安定したキャッシュフローを生み出せる」と述べた。
しかし、規制当局の審査が大きな障害となる可能性がある。シンガポールとインドネシアの競争法が合併の妨げとなる恐れがあるためだ。特にシンガポールの競争・消費者委員会(CCCS)は過去にもGrabの企業買収に慎重な姿勢を示している。2023年7月には、Grabによるタクシー会社Trans-Cabの買収計画に対して競争懸念を指摘し、2024年7月に最終的に取引が破談となった。また、Grabはフードデリバリー大手foodpandaの東南アジア事業買収も検討していたが、CCCSの調査を受け2024年2月に計画を断念した経緯がある。
デジタル証券会社MoomooのCEO、ギャビン・チア氏は、今回のGrabとGoToの合併は「規模も業界の影響力もこれまでの案件とは異なる」と指摘する。配車やフードデリバリーに加え、フィンテックなど多岐にわたる業界に影響を与えるため、東南アジア各国の規制当局がどのような判断を下すかが鍵となる。
一方で、GrabとGoToにとって合併の意義は大きい。東南アジアの配車市場では競争が激化しており、低価格競争を続けるのは困難だ。チア氏は、「競争に勝てないなら手を組む方が理にかなっている」と述べ、合併が両社の長期的な成長戦略の一環であることを強調した。
※ソース