世界的な保護主義の高まりや米中間の報復関税の応酬により、企業のサプライチェーンは不安定さを増している。こうした中、シンガポールとマレーシアが連携して進める「ジョホール・シンガポール経済特区(JS-SEZ)」は、企業が変動する経済環境に柔軟に対応し、成長を続けるための新たな拠点として注目を集めている。
JS-SEZは、先進製造、物流、テクノロジー、デジタル経済などの分野において、国境を越えた貿易・投資を円滑に進めるために設計された経済特区である。南ジョホールに広がる3,571平方キロメートルの区域には、簡素化された通関手続き、規制の調和、モノと人の円滑な往来、そして税制上の優遇措置が導入される予定である。
シンガポールのガン・キムヨン副首相(兼 貿易産業相)は、4月21日にジョホールで開催されたビジネス・投資フォーラムで基調講演を行い、「JS-SEZは、企業がサプライチェーンを強化し、変動に柔軟に対応する手段となる」と述べた。また、シンガポールとマレーシアの強固な経済的パートナーシップの延長線上にあるこのプロジェクトが、「新たなビジネス機会のフロンティアを切り開く」と語った。
JS-SEZは、シンガポールからの事業拡張を検討する企業、新技術の開発を目指す企業、あるいはシンガポールとジョホールの両地に拠点を構える「ツイン展開」を志向する企業を対象としている。
このフォーラムには、マレーシアのテンコゥ・ザフル・アジズ投資・貿易・産業大臣も出席し、「マレーシアとシンガポールの経済的結びつきは、かつてないほど重要になっている」と語った。米国による関税政策の影響を分析中であるとしつつも、「過度な悲観は不要であり、JS-SEZの必要性は明白である。成功に向けて全力を尽くす」と強調した。
同じく登壇したリュー・チントン投資・貿易・産業副大臣は、米国という最大市場への輸出に過度に依存せず、ASEAN諸国、インド、バングラデシュ、ブラジルといった新興市場向けの技術創出の必要性を訴えた。
また、シンガポール経営者連盟のコク・ピンスン最高経営責任者は、JS-SEZが関税回避の機会を提供する可能性についても触れた。具体的には、シンガポールの10%の対米関税を活用することで、両国が相互にコスト削減の恩恵を受けられるという。さらに、米国は世界貿易の13〜15%に過ぎず、シンガポールとマレーシアがそれぞれ締結するFTA(自由貿易協定)を組み合わせれば、「実質的に世界の大半をカバーできる」と述べた。
今回のフォーラムは、関税問題がもたらす混乱の中で開催されただけに、JS-SEZが果たすべき役割への期待の高さを改めて印象づける場となった。
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